インターネット上の表現と名誉棄損罪の成立要件

新聞報道もされていましたが、ネット上の表現についても、名誉毀損罪の成立要件は他の表現方法と同じで、緩やかにならないとの最高裁の判断が示されました。

平成21(あ)360 名誉毀損被告事件  
平成22年03月15日 最高裁判所第一小法廷
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地裁は、ネットは情報の信頼性も低いと受け止められていること等を根拠に無罪判決でしたが、高裁はネットであってもマスコミ報道等と基準を変えるべきではないという判断で、罰金30万円の有罪判決を下したという事件です。

判決要旨

インターネットの個人利用者による表現行為の場合においても,他の場合と同様に,行為者が摘示した事実を真実であると誤信したことについて,確実な資料,根拠に照らして相当の理由があると認められるときに限り,名誉毀損罪は成立しないものと解するのが相当であって,より緩やかな要件で同罪の成立を否定すべきものとは解されない(最高裁昭和41年(あ)第2472号同44年6月25日大法廷判決・刑集23巻7号975頁参照)。これを本件についてみると,原判決の認定によれば,被告人は,商業登記簿謄本,市販の雑誌記事,インターネット上の書き込み,加盟店の店長であった者から受信したメール等の資料に基づいて,摘示した事実を真実であると誤信して本件表現行為を行ったものであるが,このような資料の中には一方的立場から作成されたにすぎないものもあること,フランチャイズシステムについて記載された資料に対する被告人の理解が不正確であったこと,被告人が乙株式会社の関係者に事実関係を確認することも一切なかったことなどの事情が認められるというのである。以上の事実関係の下においては,被告人が摘示した事実を真実であると誤信したことについて,確実な資料,根拠に照らして相当の理由があるとはいえないから,これと同旨の原判断は正当である。

上記要旨の根拠については、

個人利用者がインターネット上に掲載したものであるからといって,おしなべて,閲覧者において信頼性の低い情報として受け取るとは限らないのであって,相当の理由の存否を判断するに際し,これを一律に,個人が他の表現手段を利用した場合と区別して考えるべき根拠はない。そして,インターネット上に載せた情報は,不特定多数のインターネット利用者が瞬時に閲覧可能であり,これによる名誉毀損の被害は時として深刻なものとなり得ること,一度損なわれた名誉の回復は容易ではなく,インターネット上での反論によって十分にその回復が図られる保証があるわけでもない

と指摘しています。
地裁の判断は、反論が容易であることを根拠の一つにしていたのではないかと思いますが、理論的には反論可能でしょうが、現実に反論ができるかというと難しく(反論を読んでもらう手段・機会というのは事実上ない)、その点では最高裁の判断は穏当だと思います。