ソフトウェア特許(ビジネス方法特許)
ビジネス方法特許に関する米国のState Street Bank事件判決(1998年)を契機に、日本でも一時期はかなり活発にいわゆる「ビジネスモデル」特許の出願が増えた時期がありました。当時と比べると、現在の日本での出願はかなり落ち着いたものになっているようです(日本で認められているのは、ビジネスモデルというよりソフトウェア特許という形がほとんどです)。
米国では、それなりにビジネス方法特許は着実に増えていたようですが、他方、これを特許するのはどうかということで、発明の成立性(保護適格性)についての裁判例が増えてきており、最近は、米国でも特許として簡単には認められない方向に変化しています。
そこで、日米でのソフトウェア・ビジネス方法に関する特許の問題にかかわるリンクを整理しました。
特許庁のサイトでCS 関連発明に対する特許保護制度についての調査報告書が公開されています。
1.日本のコンピュータ・ソフトウェア関連発明
(1)審査基準
日本では、判決例がほとんどなく、特許庁の「コンピュータ・ソフトウエア関連発明」に関する審査基準(俗に「CS」基準と呼ばれています)にもとづいて審査がなされています。
審査基準については、特許庁のサイトで見ることができます。「第VII部 特定技術分野の審査基準 第1章」です。
日本の特許法においては、「発明」に該当するためには、「自然法則を利用した技術的思想の創作」であることが必要ですが、審査基準上、ソフトウェアによる情報処理が、ハードウェア資源を用いて具体的に実現されていること(ソフトウェアとハードウェア資源の協働)が要求されています。
(2)判例
近時、発明の成立性に関する「自然法則の利用」の考え方について興味深い判決が知財高裁において相次いで出されています。
要旨:
データ操作に関し長いデータストリングを短いデータストリングに変換する方法であるハッシュ法によりコンピュータ処理を高速に行うための計算手法(アルゴリズム)に関する発明につき,既存の演算装置に新たな創作を付加するものではなく,その実質は数学的なアルゴリズムそのものというほかないから,「発明」に該当しないとして,審決取消請求を棄却した事例
要旨:
発明につき,人の精神活動が含まれている,人の精神活動に関連するものであるが,発明の本質が,人の精神活動を支援するための技術的手段を提供するものであり,「自然法則を利用した技術的思想の創作」に該当するとして,審決が取り消された事例
要旨:
綴りが分からなくても発音から単語を検索できる英語辞書を引く方法の発明について,自然法則を利用した技術的思想の創作ではなく,特許法2条1項所定の発明に当たらず,同法29条1項柱書きの規定により特許を受けることができないとした審決を取り消した事例
上記判例のうち、特に「音素索引多要素行列構造の英語と多言語の対訳辞書」の判決については、辞書を引く方法についての発明で、コンピュータの利用も前提となっていないにもかかわらず、発明に該当すると判断していることから、注目されている判決です。
2.アメリカのソフトウェア・ビジネスメソッド関連発明
(1)審査基準
米国審査基準(Manual of Patent Examining Procedure:MPEP)については、USPTOのサイトから入手可能です。米国の特許の成立性に関する記述が、MPEP2106にあり、コンピュータ関連特有の事項については、MPEP2106.01で解説されています。
(2)判例
米国では、基本的にはプロパテント政策にもとづき(さらに、日本と異なり法律上も「発明」に定義がなく幅広く特許を認める素地があります)、ソフトウェア特許だけでなく、ビジネスメソッドについても、広く特許を認める方向にあったのですが、さすがにこれに特許を認めるのはどうかという事案が増えてきているようで、判例上も、基準を見直す方向に動いています。
- Bilski事件CAFC判決 In re Bilski,545 F.3d 943(Fed. Cir. 2008)(en banc)
コンピュータその他の特定の装置を前提としない商品取引分野においてリスクをヘッジするという方法クレームの特許に関する事件で、発明成立性を否定した(米国特許法101条を満たさないと判断)。同判決の中でState Street Bank事件判決が示した”useful concrete and tangible result”テストは不適切であり、machine or transformationテストが唯一の判断基準であるとの判断を示した。
- bilski事件最高裁判決1
当該クレームについての発明成立性は否定しました。Bilski事件CAFC判決が採用したmachine or transformationテストが唯一の基準であると言うことを否定しています。 -
Alice事件最高裁判決2
Alice 最高裁判決では、保護適格性の判断基準として、
- クレームが抽象的アイデアを対象としているか(第1ステップ)
- 抽象的アイデアを対象としている場合、その抽象的アイデアを遙かに超える(“significantly more”)要素が追加されているか(第2ステップ)
という2 ステップによる判断基準が示されています。
この最高裁判決後は、審査においてかなり保護適格性が認められることが厳しくなっています。