知的財産権を活用するために

1.ライセンス契約は要注意

知的財産権の効力は他の事業者が無断で利用できないという独占的な効力が中心ですが、当然ながら、自社でその特許等を使用しないのであれば、その権利をライセンスすることにより、ライセンス料との収益を上げるという選択肢もあります。

ライセンスを行う場合には、ライセンス契約を行うことになりますが、その場合に注意すべき点いくつかあります。ライセンス契約を締結する際には、ライセンス料に注目しがちですが、ライセンス料というのは、ライセンス先の売上があがることが前提となる事が多く、契約内容によっては、ライセンスした技術の利用が制約される事になりかねません。

特に注意すべきなのは、独占的なライセンスなのか、非独占的なライセンスなのか等、条件をよく見極めることです。

独占的ライセンスの方が一般論としてはライセンスフィーを高く設定できますが、ライセンス先の事業者が十分な販売、事業の遂行能力がない場合には、ライセンス料を受け取れないだけでなく、その契約に縛られて、自ら販売、あるいは他の能力のある事業者にライセンスすることもできないという事態に陥りかねません。

これ以外にも、ライセンスフィーをイニシャルでもらうのか等、ライセンス契約の締結を行う際には、様々な要素を考慮する必要があります。

ライセンス契約の交渉、契約書の作成、チェックについても、お気軽にご相談ください。
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2.知的財産権を担保として活用?

最近は、知的財産権の活用方法として、担保として利用することが注目され、実際の融資の際に知的財産権を担保とする事例も出てきています。

もちろん、知的財産権は権利ですから担保にできないわけではありませんが、知的財産担保融資を行う金融機関のプレスリリース等をみますと、知的財産権を担保に融資しているというよりは、その会社の技術力等の事業性に着目して融資しているのが実体です。

例えば、特許として登録されたものでさえ、無効審判等の手続によって事後的に権利を否定されることがあり、権利の不確実性が高いこと、特許だけで一定の製品が製造できるわけではなく、それに関連するノウハウや人材が組み合わさってはじめて収益化が図れるといった問題、権利の価値評価の困難性等、特許権のみを担保にして融資することについては、問題となる点が多いのが現状です。

しかし、これまでの融資が過度に不動産担保・保証に依存していたのと比較すると、その会社が知的財産の保護にどれだけ取り組んでいるかが融資の際の判断材料になっているということは注目すべきですし、融資を受ける際のアピールポイントとして意識すべきではないかと思います。

担保と関連して、知的財産信託という方法も最近は目にするようになってきました。信託というのは、委託者が受託者に財産を引き渡し、一定の目的(信託目的)に従い、自分又は受益者のために、受託者がその財産(信託財産)を管理・処分する仕組みのことをいいます。

平成16年12月の信託業法改正により、受託可能財産の制限が撤廃され、知的財産も信託可能となったことから注目されるようになったのです。

ただし、注目の割には、実際の活用例はそれほど多くはないように思われます。信託をする際にも、権利の不確実性の問題や価値評価の困難性の問題があり、実際にはなかなか利用がすすまないのではないかと考えています。うまく活用すれば、信託受益権の証券化のスキームと組み合わせることにより、資金調達に役立つ制度だと思います。

3.自社の知的財産権をどう守るか

まず、自社の有する無形資産を洗い出すことが先決です。自社のどこに強みがあるのか、そしてその上で、その無形資産が、知的財産という形で保護できる対象なのか、保護をするとして、例えば、特許という形で保護を求めるのか、それとも営業秘密という形で保護を図るのかというような選択を行う必要があります。

また、商品、サービスを取り扱う会社であれば、使用しているマークについて、商標を取得しておく必要はないのか等も検討していく必要があるでしょう。

さらに、社内に知的財産権についての知識がある程度必要になりますので、社内において兼任でもかまいませんので、担当者をおき、ある程度の研鑽を行う必要があります。もちろん、自社内ですべて対応することは難しいですので、必要に応じて弁護士・弁理士といった外部専門家と連携できるような体制整備をすべきでしょう。

さらに、特許の関係で言えば、発明は、当然には会社の権利になるわけではなく、発明者(従業員)に帰属します。その権利を会社が承継するためには、職務発明規程等により会社に権利が譲渡される必要がありますので、職務発明規程の整備も必要になってきます。

営業秘密の保護という観点からは、秘密管理規程等、情報管理に関する規程の整備、従業員から秘密保持誓約書の提出を受けるといったことが必要ですし、先使用権の確保という観点からは、発明、ノウハウにかかる開発関係の資料をどのように保存するのかという文書管理の体制作りも必要となってきます。

営業秘密について詳しく知りたい方は営業秘密・機密情報の管理 あなたの会社の門外不出の技術・ノウハウを守るためにをご覧ください。

4.他社の知的財産権を侵害しないための実務

知的財産権が重視される世の中になってきていると言うことは、逆に言えば他社の知的財産権を侵害する可能性が高くなってきているということがいえると思います。

産業財産権に関して言えば、基本的には他社の知的財産権の出願、取得状況を把握しておく必要があります。特許庁で公開されている情報については、特許情報プラットホーム(J-PlatPat)で、誰でも無料で検索することが可能ですので、それを活用することで情報を入手しましょう。

他社の出願内容を検討し、場合によっては他社の特許と抵触しないような技術を開発することを検討すべき場合もありますし、他社特許に無効理由(新規性、進歩性等を欠く)がないかを検討する必要が出てくることもあるでしょう。

著作権に関して言うと、産業財産権の場合と異なり、結果的に全く同じものであっても独自に創作したものであれば、著作権侵害にはならないので、他者の著作物を無断で利用しない、まねしないということが重要です。

自社でコンテンツを開発する場合であれば、著作権についての理解を深めるための教育・研修が重要です。また、第三者にコンテンツの作成を依頼する場合には、制作委託契約で著作権侵害を行わないことを誓約させる、侵害した場合の対応等の取り決めをしておく必要があります。

他者の営業秘密を不正に取得していないかという点も注意が必要です。意図的に他社の営業秘密を取得するような行為は論外ですが、人材が流動化している現在、中途採用者を通じて他社の営業秘密情報を取得し、自社で利用してしまうというコンタミネーション(情報の混入)リスクが高まっており、これをどのように防止するのかが重要性を持ってきているのです。

対応としては、募集時、転職者希望者が前職で負っていた秘密保持義務や競業避止義務の内容を確認する、前職で入手した情報を自社内で開示、利用しない旨の誓約書をとる、といった対応を検討する必要があります。

いずれの知的財産権の場合であっても、知的財産権に対する理解が不十分であれば、意図せずに他社の知的財産権を侵害する可能性が高くなりますので、知的財産権の基本的な知識を把握しておくが前提であり、侵害の恐れがあるかもしれないと判断した場合には、弁護士、弁理士等の専門家に相談できるような体制を作ることが重要です。

当事務所では、知的財産権に関わるご相談だけでなく、皆様の会社での知的財産権に関わる社内規程整備等の社内体制の構築、適切な弁理士の方との連携等、通常であれば、知的財産部が行う業務のアウトソースも承っています。ご相談の際は、お問い合わせフォームをご利用ください。